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地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説2
悲しき銃社会(2022年5月28日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方などを今後、不定期に翻訳、掲載します(NT掲載から本サイト転載まで多少の時間経過あり)。電子版からの翻訳で、地元翻訳家の星大吾さんの協力を得ました。
 星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現 白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowersにおける空間と時間 人文主義地理学的解読」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。
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 米国は、自国民を守る力を日々失いつつあるようだ。イースト・バッファローでの銃乱射事件に続き、テキサス州ユバルデの学校で銃乱射事件がおきた。この数日間、多くのアメリカ人が、失われた命に対し信じられないという思い、悲しみ、疲労、そして怒りを感じている。こうして心を痛め生きることのほかに何ができるというのだろうか。

 ユバルデの警察は驚くべき無能さをさらした。スティーブン・C・マックローテキサス州公安局長によると、「危険な状態の子供はいない」と判断され、警察がようやく犯人確保に向かったのは犯人が中に入ってから78分後のことだったという。一方、911通報係は教室内から何度も通報を受けおり、その中には警察を呼んでほしいと懇願する子供の声もあった。その結果はどうなったか。犯人はロブ小学校の19人の児童と2人の教師を殺害した。

 マックロー氏は、判断ミスが複数あったことを認めた。現場にいた指揮官が犠牲者の家族に謝罪する必要があるかという質問には、「遺族のためになるならば、私自身が謝罪することも辞さない」と答えている。

 現地には、学校内で銃声が鳴り続けるなか恐怖におののき警官に突入と子供たちの救出を懇願する親たちが集まっていた。しかし、警察は彼らを引き留めていた。一人の母親は手錠をかけられたが、隙を見てフェンスを乗り越え、子供を助けるために学校内を走り回った。その間警察は、彼女によれば、「何もしていなかった」。
警察官達は何年も前からこのような事態を想定した訓練を受けていた。しかし、いざというとき、子どもたちのいる学校でアサルトライフルを振り回す犯人を止めることはできなかった。

 TikTokを投稿し、デニムのジャケットを着て、毎朝学校に行く途中で「Sweet Child o' Mine」を歌うのが好きだったレイラ・サラザール。彼女のような子どもたちの死は筆舌に尽くしがたい大きな悲しみである。

 レイラの祖父、ヴィンセント・サラザール氏は、タイムズ紙に「彼らは私たちからあの子を奪った」と語っている。「残された家族は、どうやって傷ついた心を癒したらいいのか?」

 イルマ・ガルシアはロブ小学校の教師で、古いロック音楽が好きだった。彼女の甥によると、彼女の遺体は子供たちに抱かれた状態で発見された。生き残った4年生は、「ガルシア先生とエバ・ミレレス先生が僕たち生徒の命を救ってくれた」と語った。「先生たちは僕らの前に立っていたんです。僕らを守るために。」

 悲劇に悲劇が重なり、国民の疲弊感は深い。バッファローでは、5月14日にスーパーマーケットで起きた銃乱射事件の犠牲者のために、金曜日に3つの葬儀が行われた。10人が死亡し、3人が負傷した。

 「まるで年中行事だ。何度も何度も繰り返されている」と、犠牲者の一人、ジェラルディン・タリーの息子であるマーク・タリー氏は木曜日の記者会見で述べた。

 バッファローでは、白人の犯人がAR-15スタイルのアサルトライフルで黒人の多い地域を狙った。彼は、アメリカ白人が移民や有色人種に追いやられつつあるという、「大交代」論と呼ばれる人種差別的陰謀論の信奉者であった。共和党員の半数近くが最近、世論調査に対して「権力者が政治を動かすために移民を集めている」という陰謀論があり得ることだと答えている。

 妄想狂と銃器。この組み合わせは、これまで何度も悲劇を引き起こしてきた。「このような殺戮を喜んで受け入れるなどとどうして思える?」 バイデン大統領は火曜日、国民に問いかけた。

 大量殺戮の銃声の響きが消えぬ間に、次なる殺人が起こっている。家族によると、被害者の夫、ジョー・ガルシア氏は木曜日に心臓発作で亡くなった。50歳のガルシア氏は、木曜日の朝、妻の追悼式から帰宅したところで、倒れたという。

 このような事態に、国民はいつまで耐えなければならないのか。その問いは至極当然である。腹立たしいことに、その答えはこうだ。2022年の最初の21週間で、米国では213件の大量殺戮があった。毎日、平均321人のアメリカ人が撃たれている。そして毎日、概ね5万件以上の銃売買が記録されている。適切にメンテナンスされた銃は、何十年も新品のように発砲することができる。

 20人の子供と6人の教師が死亡した2012年のサンディフック小学校(コネチカット州ニュータウン)の大虐殺以降、アメリカはもはや悲劇に耐えることをやめ、銃器団体は今後力を弱めていくと期待されていた。

 10年の時が過ぎた今、そのどちらも実現してはいない。金曜日、ドナルド・トランプ前大統領、テキサス州のテッド・クルーズ上院議員、サウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事、ノースカロライナ州のマーク・ロビンソン副知事が、ウバルデから車で数時間のヒューストンで開かれた全米ライフル協会の年次大会に出席し、講演を行った。これほどまでに銃器団体が共和党の大部分を完全に掌握していることを示す事実は他にない。

 全米の各州は、レッドフラッグ法、身元調査、購入年齢制限など、効果的な銃の安全対策となる法案成立させるために、少しずつではあるが前進している。しかし、これらの州は厳しい逆風にさらされている。今月、連邦裁判所は、半自動小銃の購入年齢を21歳に設定したカリフォルニア州の法律を取り消した。とはいえ、議会は現在、特定の銃を子供たちに宣伝することを制限し、カリフォルニア州民が銃製造業者を訴えることを可能にする、法案を審議中である。なんであれ銃の入手を容易にしないことは望ましいことだ。

 ニューヨークでは今週、連邦判事が、公共の安全を脅かした企業に民事訴訟を認める法律に対する銃器団体の異議申し立てを退けた。またキャシー・ホッホル州知事は、一部のアサルト・ウェポン購入の年齢制限を21歳に引き上げるよう議会に要請した。テキサスの銃乱射事件では、犯人は18歳の誕生日を待って、2丁のアサルト・ウェポンと数百発の弾薬を購入していた。

 ワシントンDCでは、本人や他人に差し迫った危険があると判断された場合警察が銃を取り上げることを可能にする、ある種の国家的な銃規制法について共和党と民主党の議員が成立に合意する可能性があるという話もある。

 コネチカット州のクリス・マーフィー上院議員(民主党)は、超党派の議員グループを率いて、より包括的な連邦身元調査制度の確立を検討している。この改革はアメリカ人の88%が支持している。

 我々は、これまで銃の安全対策に関するこうした超党派の取り組みが、結果を出さずに終わるのを目の当たりにしてきた。それでも、共和党の強硬な姿勢に直面する民主党、特にバイデン大統領は、最善を尽くすべきである。サンディフック事件以来、銃規制強化の先頭に立つマーフィー上院議員は、先週の上院の議場で、現状を巧みに表した言葉を述べている。

 彼は「私たちは何をしているのか?」と議員たちに問いかけた。「虐殺が増え、子供たちが必死に逃げ惑う中、その答えが『何もしていない』であるなら、なぜ、この仕事に就き、名誉ある立場に身を置くということをあえてしているのか」。

 この質問は、上院に直接語りかけるものであり、より広くアメリカ政府の制度全体に語りかけるものである。たしかに、この国の民主主義制度は、銃に対する多様な意見を代弁するものである。しかし、現在の構造では、議会は最も弱い立場にある市民の訴えに根本的に応えておらず、強力な利益団体によって腐敗し、そうした団体によって大多数のアメリカ人が支持するささやかな変更さえ阻止されてしまう。

 我々アメリカ人は皆、この広大な国を共有し、この国をより良くする方法を考え、互いを生かし、繁栄させる必要がある。今、我々はその大きな責任を果たせずにいる。州レベルでは、事態が変わりつつある希望の光が見えている。しかし、その前進は耐えがたいほどに遅く、対策が講じられるまで今日も、明日も、そしてこれからも毎日、何百人ものアメリカ人が撃たれることになるだろう。(2022年6月4日)

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【写真】ニューヨークタイムズ電子版社説(22年4月6日付)ページ

地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説 1
ウクライナにおける戦争犯罪の記録(2022年4月6日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方などを今後、不定期に翻訳、掲載します(NT掲載から本サイト転載まで多少の時間経過あり)。電子版からの翻訳で、地元翻訳家の星大吾さんの協力を得ました。
 星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現 白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowersにおける空間と時間 人文主義地理学的解読」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。
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 破壊された戦車、焦げついた壁、裂けた木、そして泥にまみれ転がる死体…ブチャを始めとするウクライナの都市におけるこれらの凄惨な画像は、ウラジーミル・プーチンが始めた戦争の残虐性をなによりも物語っている。ロシア軍の撤退に伴い、このような惨状がさらに明らかになると考えられ、戦争犯罪の追求を求める声が高くなっている。
 バイデン大統領は戦争犯罪裁判を求め、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、戦争犯罪であることが「明らかである」と宣言した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、強姦や略式処刑の事例を文書化して報告した。ウクライナおよび国際的調査団はすでに証拠の収集と目撃者への聞き取り調査を始めている。これらの調査は迅速かつ慎重に行うことが求められる。
 無数の市民が、ロシアの砲弾が自分の住居に当たらないことを祈り、家の中で身を伏せている。このようなときに、証拠の解析や、目撃者への聴取は、法律主義に過ぎるように映るかもしれない。あたかも戦争にルールがあり、敵への死と破壊に正しい方法があるかのような考え方は理解しがたいし、指揮官への起訴は勝者の正義とみなされる危険性をはらむ。
 少なくとも75年前から、国際社会はいわれのない侵略戦争をそれ自体が犯罪であると定めるため、現実的な(それゆえに不完全な)取り組みを行ってきた。ニュルンベルク裁判の言葉を借りれば、「したがって、侵略戦争の開始、単なる国際犯罪であるだけでなく、他の戦争犯罪とは異なり、それ自体が巨大な悪の集合であるという点で最悪の国際犯罪」である。

 ウクライナにおいては、ロシアが侵略者であることに疑問の余地はない。5週間にわたってロシア軍に占領されていたウクライナの町ブチャも、マリウポリ、ハリコフ、チェルニヒフ、キエフ、その他多くの都市。プーチン大統領が帝国主義と隣国侵略の野心を満たすためにいわれのない戦争を命じなければ、平和な春の到来を迎えていたことだろう。ウクライナの抵抗は紛れもなく自衛であり、世界各国はプーチン大統領と彼の国に制裁を加える権利がある。ウクライナ軍の武装化を支援し、侵略を困難にすることで、プーチン大統領やその側近が正気に戻るようにする。これは正しいことである。
 しかし、戦闘の霧の中でも容認することのできない犯罪の存在を世界はすでに知っている。客観的な証拠の収集と記録は、この泥沼を切り抜け、いずれ加害者の責任を追及する可能性を残す実効的な方法である。村や病院への攻撃命令を違法とする裁判官が現れ、その法的判断が次の戦争の抑止力となる可能性は、わずかながらでもある。戦争犯罪の捜査は、被害者の尊厳と侵略者の違法性に光を当てるための強力な政治的手段である。
 第二次世界大戦後、さまざまな国際刑事法が定められた。最も有名なのは、ジュネーブ条約(1949年)である。これは民間人への意図的な虐殺、拷問、無差別な破壊行為、性的暴力、略奪、子どもの徴用などの戦争犯罪について、戦闘員の個人的責任を追及することを目的とする。また、ジェノサイド条約や人道に対する罪を禁止する法律も制定されている。

 ロシア軍の行動は、これらの法に違反している可能性が高く、国際刑事裁判所などいくつかの裁判所ですでに捜査が始まっている。都市への無差別砲撃、ブチャの集団墓地で明らかになった大量殺人、マリウポルの劇場への爆撃など、戦争犯罪とみなされかねない行為が数多くある。この侵略行為のすべてが戦争犯罪となる可能性があり、その責はプーチン大統領にも及ぶと思われる。これらの犯罪が、国家政策に基づく民間人に対する広範または組織的な攻撃の一部であると判断されれば、人道に対する罪にも該当する可能性がある。
 ちなみにロシアは、ブチャでの残虐行為はすべて捏造されたものと主張している。また、ウクライナ軍がロシア人や協力者に対して行った残虐行為の証拠を調査官が発見することも十分にあり得る。それならばなおさら、徹底的な調査が必要とされる。
 証拠の収集、起訴の確保、公正な裁判の実施など、正義の実現は困難を伴い、時間と費用がかかる。そのため、戦争犯罪で処罰に至った事例はほとんどない。国際司法裁判所は、大量虐殺、人道に対する罪、戦争犯罪について単独で起訴することができるが、プーチン大統領とその側近に対し最も追求すべき侵略の罪については、国連安全保障理事会が起訴しなければならず、そこにはロシアの拒否権が確実に存在することになる。また、ロシアは国際刑事警察機構を承認しておらず、容疑者を引き渡さないだろう。
ウクライナも国際司法裁判所設立の条約に加盟していないが、ウクライナ国内で起きた犯罪に対する裁判権は認めている。米国は国際刑事裁判所を敵視してきた経緯があり、バイデン大統領はプーチン大統領の戦争犯罪を非難する際も、どのような機関により訴追されるかを明確にしなかった。

 しかし、これらのハードルは、正義の追求を妨げるものではない。たとえ過程が困難で数カ月、数年にわたるとしても、ウクライナにおける具体的な犯罪について、法医学的な、信頼性、検証性があり、司法手続きを経た記録を歴史に残すことが重要である。責任者を明らかにし、その行動を特定するべきであり、可能な限り、罪に対し罰が与えられなければならない。ロシアが残虐行為はすべて捏造だと主張しているという事実そのものが、詳細かつ議論の余地のない司法的対応を要求しているのである。
 バイデン政権とその同盟国は、正確な情報によってクレムリンのプロパガンダに穴を開けるという大きな成果を出した。戦争犯罪についての信頼性のある記録は、今後も同様の目的を果たすだろう。
 バイデン政権は、たとえ法律で資金援助を禁じられていたとしても、証拠収集において国際刑事裁判所と協力すべきである。他の選択肢もある。特別法廷を国連の承認なしに設置することもできるし、米国などいくつかの国が普遍的管轄権を主張し、独自の裁判を行うことも可能だ。しかし、あまりに多くの調査が行われると、法的プロセスの社会的影響が薄れることが懸念される。また、国際刑事裁判所と同等の権威・権限を持つ法廷が他に存在しない。

 いずれにせよ、プーチン大統領やウクライナでの戦争犯罪の責任者に対して正義を求めることを、長期的な目標として考えなければならない。ロシアは撤退しているのではない。東部への攻撃に備え、軍備を整えているのだ。和平交渉へのロシアの参加は、戦略的なものと考えられる。ブチャの惨状によって、ウクライナへのより強力な兵器の提供と、ロシアへのさらなる制裁が求められている。欧米のウクライナ支援の焦点が、これらにあることに間違いはない。
 しかし、ブチャなど多くの場所で示されている犯罪的残虐行為の恐るべき証拠を、現存するうちに迅速に収集し、目撃者の記憶がまだ新しいうちに聴取することも必要である。後世の人々は、何が本当に起こったのかを知らなければならない。それは正義のためにしておかなければならないことである。(2022年5月23日)
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「3つの共生」軸に 輝き続けるまちづくり
臂伊勢崎市長に聞く―2022【3】(2022年4月5日)

 『いせ咲く。』は、伊勢崎市が掲げるキャッチコピー。市の花「ツツジ」をモチーフに、「伊勢崎」と「咲く」を組み合わせた造語で「もっと花咲ける街に」の思いを込めている。一方、市政運営のキーワードともいえるのが「3つの共生(世代間・地域間・SDGs)」だ。これらを軸としたまちづくりで、輝き続ける地方都市を目指すという、新年度の取り組みを聞いた。

 ― 子供から子育て世代、勤労者、高齢者まで、あらゆる世代が支えあう「世代間の共生」について、具体的な取り組みを教えて下さい。

 臂市長 新年度に条例制定で支援したいのが、高齢者の社会活動を応援する仕組み。いわば高齢者の「活躍・応援条例」だ。老人会の活動をより活発にし、まだまだ元気な人の地域活動も応援していく。免許返納の一人暮らしでも社会参加を促す、高齢者タクシー利用料金の助成要件も拡充する。教育・保育施設勤務の保育士さんなどが長期間、気兼ねなく産休を取得できる代替経費の助成など、子育て世代の支援環境も整えたい。地域住民や社会福祉協議会などの関係団体と協働し、地域のつながりや相互扶助の機能を高めていきたい。

 ― 市町村合併後の地域の一体感をどのように受け止め、「地域間の共生」を進めますか。

 臂市長 合併後17年を迎えるが、一部にまだひとつになりきれていない状況も見受けられる。支所機能を見直す中で、サービスの平準化、地域の独自性を考えていきたい。伊勢崎市公共施設等総合管理計画を改訂し、適切な資産マネジメントにより中長期的に市全域でバランスの取れた市民サービスを実施。地域間の共生を目指したい。また次の都市計画のマスタープランでは皆さんの理解をいただき、都市政策などを変えていくことも必要だと考えている。

 ― 「SDGs」は2030年までに、誰一人取り残さず、環境・経済・社会などあらゆる面で、より良い持続可能な社会を目指す17の国際開発目標です。市の具体的取り組みを教えて下さい。

 臂市長 環境面では行政組織の環境部を見直していく。女性・障害者雇用とその活躍など、市民の活躍の場をより整えていきたい。市職員が理解を深め、課題を解決するために「SDGsゲーム公認ファシリテーター」を養成する。外国籍の人にとって言葉の壁は高いので、それぞれの外国籍のキーパーソンの方に市の考え方を、広めてもらうような橋渡しも考えている。手話通訳の充実には担当職員養成で対応、という声もあるが、異動などで継続性がない。やはり社会福祉協議会などと連携して人材を確保することが望ましいと思う。民間については市内中小企業のSDGsビジネス推進に「ぐんまSDGsコーチングプログラム」事業費負担金事業も実施していく。

 ― 最後に2年目に向けての意気込みをお聞かせ下さい。

 臂市長 2人副市長体制も整えたこともあり、これから職員の皆さんとともに、本当の意味での地方自治に取り組みたい。伝えているのは「Transforming Our World」(私たちの世界を変革する)。職員は十分なスキルを持っており、やりたいことをもっと前面に出してほしい。職員から変わっていくことが、市民の意識の変化にもつながるはずだ。

 【取材メモ】市内病院、医師会、保健所などの医療連携に触れた時、特例債活用などのスケジュールもあり、やむを得なかったとしながらも「新保健センター計画時に、より幅広い議論ができていれば、医師会の先生方からは保健所も一緒に考えたら、という声が挙がっていたかもしれない」と残念がる。幅広い議論と長期的視野の重要性を改めて自戒した言葉にも受け取れた。
 取材の翌日、市経済界の重鎮から「昨日は市長のところ?」と聞かれた。記事掲載前なのにどうして?の疑問に「ブログで読んだから」と返ってきた。臂市長は市議時代の2011年12月11日の誕生記念日から「継続は力なり」と、日々の活動や感じた事を丹念に綴っている。愚直に記された言葉の一つひとつには人柄がにじみ出ている。市は広報誌や様々なSNSを通して市政情報を発信しているが、市長自らのこうした情報発信は、市民にとっては得難く、市政への親しみや関心を高めることにつながりそうだ。
              
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臂市長ブログ  2021年伊勢崎市長インタビュー
【写真】群馬県伊勢崎保健福祉事務所。左後方建物は伊勢崎佐波医師会病院

市保健所設置に向け費用対効果を検証
臂伊勢崎市長に聞く―2022【2】(2022年3月31日)

 市保健所設置や伊勢崎織物組合所有の土地活用協定締結は、今後の保健行政や中心街の活性化に向けて、数年間をかける新たな取り組み。一方、同じ初でもネーミングライツは、新年度中の実施が見込まれる。「低い市民所得」の要因と改善策も聞いた。

 ― コロナ対策の最前線を担っている群馬県の伊勢崎保健福祉事務所ですが、市はより迅速な対応に向けて、自前の保健所設置に動いています。政令指定都市と中核市(前橋・高崎市が該当)以外の市で保健所を設置する場合、保健所政令市への移行が求められますが、その取り組み状況を教えて下さい。

 臂市長 これまでも山本一太知事をはじめ群馬県には意向は伝えている。新年度はさまざまな角度から、本市が保健所を設置することのメリットとデメリットを検証する。初めて保健所政令市となり、人口規模では伊勢崎市と同程度の神奈川県茅ヶ崎市など、全国に5つある保健所政令市へのアンケート調査を実施していく。そのうえで、あらためて取り組む意義があるか否かを議会や市民の皆さんに示したい。

 ※編集部注:茅ヶ崎市は神奈川県が郊外の衛生研究所内への保健所移転計画を機に、現在地の利便性などを考慮し、2017年4月に保健所政令市。県保健所の建物をそのまま借用、現在に至る。人口(3月1日現在)と一般会計当初予算(2022年度)を比較すると、茅ヶ崎市約24万人/約765億円、伊勢崎市約21万人/約777億円。

 ― 伊勢崎市織物協同組合が曲輪町に所有する土地(7900平方m)活用も新たな試み。市は昨年、組合と協定を結びましたが、どのような活用、事業手法を考えていますか。

 臂市長 組合の協力に感謝し、協定の目的でもある、中心市街地の活性化と持続的発展につながる活用を目指したい。組合の意向を十分に踏まえ、まちのにぎわいを創出し、本市の魅力を発信できる内容を盛り込みたい。複合施設を検討することになると思う。開発手法としてはPPPやPFIなど、官民連携による整備手法導入も視野に入れている。初めての試みとなるだけに我々も学ぶところは多いし、対外的にも市のイメージアップにつながるはず。そんな取り組みになればと思う。

※PPP(公民が連携して公共サービスを提供する枠組み)、PFI(公共施設の建設、維持管理、運営に民間資金とノウハウを活用する事業手法)。

 ― 公共施設の名前(愛称)に企業名や社名ブランドをつける「ネーミングライツ」。既に昨年、需要調査を終えていますが、実施までのスケジュールは。

 臂市長 新年度早々には応募企業の募集を始める予定。募集期間は2か月程度で、審査委員会の審査を経て、優先交渉権者を決める。命名権者との契約後は一定の周知期間を設け、実際の施設愛称の使用は、10月中までにはと考えている。本事業を新たな財源確保の手法として定着させ、本市と命名権者企業の事業効果を検証しながら、対象施設の追加などを考えていきたい。他自治体が先行する事業だが、本市では公共施設に一民間企業名を冠するのは、行政の公平性などから抵抗があったのかもしれない。

 ― 市民にとっては意外、驚愕の「低い市民所得」。就任前の臂市長の指摘で初めて知る市民も少なくありませんが、その要因と改善策を教えて下さい。※最新の2017年度の1人当たりの市町村民所得は、約286万円と群馬県内12市中最低(最高は太田市の約397万円)。

 臂市長 市内誘致企業に市外の方々が従事、3次産業への依存度の高さ、事業承継されずに高齢化、半事業・半年金の多いことなど、要因は複数ある。対策の一つが、雇用の創出と事業者が利用しやすい更なる支援制度、体制の充実。商工団体、金融機関と連携したビジネスマッチングイベントの市内開催など、市内大手と地元中小企業との関係も強化したい。地場野菜を活用した商品開発など、野菜のブランド化による価値向上の農業振興。高齢化や後継者不足で事業承継が難しい中小企業には、商工団体と連携・サポートしていく。市外在住で市内企業従事者には、移住・定住につながる施策を推進するなど、きめ細かく対応していきたい。
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2021年伊勢崎市長インタビュー
【写真】新保健センターを建設する、大手町の福島病院跡地

「望ましい保健行政の在り方」に道筋
臂伊勢崎市長に聞く―2022【1】(2022年3月28日)

 就任2年目を迎えた臂泰雄伊勢崎市長。コロナ対策ではワクチン接種や経済支援対策に力を注ぐ一方、マニュフェスト実現や積年の諸課題に取り組んだ。就任早々、複数施設案だった新保健センター・子育て世代包括支援センター計画を、粘り腰で統合に巻き直した。市独自の保健所設置に向けても動き出し、今後の市保健行政の望ましい方向性を探っていく。組織改編も断行するなど、エンジン全開の1年を振り返り、2年目に向けての取り組みを聞いた。

 ― 市長就任から1年を経過しました。コロナ対策に多くの精力を割かざるを得なかった中で、市政運営を振り返っての感想を。

 臂市長 社会情勢の急激な変化、市民ニーズの多様化を肌で感じた1年だった。「建物が使えるから」と、当初は赤堀との2館体制だった新保健センター等計画は、県や国への申請手続き上、時間ギリギリだったが、統合でまとめることができた。職員の皆さんには大変な苦労を掛けたが、合併の理念、本来の望ましいあり方や組織へと舵を切ることができたと思う。その組織改編では農政部の独立、新年度に向けては副市長2人体制の他、細部にわたる組織改編を行った。一方、土地建物を民間に貸与し契約期間満了が迫っていた伊勢崎地方卸売市場は、あり方検討委員会の設置で方向性を導き出してもらう。中心街の活性化に向けて、駅に近い伊勢崎織物協同組合が所有する土地活用に関わる協定締結など、諸課題への道筋はつけることができた。

 ― 不本意だったことはありますか。

 臂市長 本来は市民一人ひとり、あるいは各種団体の皆さんの声をもっと聴き、意見交換ができる話し合いの機会を持ちたかった。残念だが、コロナ禍でことごとくダメになってしまった。今後は積極的に取り組める環境を整えたい。

 ― そのコロナ禍の現状と対策は。

 臂市長 市内では2月末までに7800人の陽性者を確認している。2回目を打ち終え6か月経過対象者のワクチン接種券は、4月中には全て届くよう手配している。言語が壁になり「どうしたらいいかわからない」という外国籍の皆さんには、キーパーソンの人に出演してもらい、多言語で解説した動画を昨年の4月から配信している。外国籍の人を雇用する経営者には、職場でワクチン接種を促してもらうよう理解を求めた。このため外国籍の市民の接種率は高い。例えば3月23日時点の3回目は、全市民14・1パーセントに対して、18歳以上で17パーセントと、3ポイント近く上回っている。

 ― コロナで疲弊した地域経済回復に向けて、市民生活や企業経営支援策は。

 臂市長 プレミアム率30パーセント上乗せコロナ対策認定店支援チケット発行、所得制限で国の子育て世帯給付事業対象外世帯への臨時特別給付、国や県の事業継続支援金受給事業者に上乗せ助成する、事業者支援給付金事業などを行った。基本的には国の対策に準じて実施してきた。
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2021年伊勢崎市長インタビュー
【国政は立憲民主党が惨敗した衆院選総選挙が終わり、来夏には参院通常選挙が行われる。この間、伊勢崎市議選(4月24日投開票)を控えている。そこで市政の現状について伊勢崎市議会の正副議長に、それぞれの目を通した考え方、取り組みを聞いた。2回目は吉山勇議長】

 「工業団地造成に民活、保育/介護/看護の人材確保に投資」

 議長として心がけているのは「長年にわたって積み上げられた先例を踏まえた議会運営」。時には疑問に思う前例のない事態に、その経緯を調べて改善するなど柔軟に対応してきた。出産を控える議員の出産前後の休業規定はそのひとつ。昨年策定した新型コロナウィルス感染症に対する市議会対応マニュアル。「現実に発生して分かることもある」として議員の感染報告を受けて改定も行った。

 「伊勢崎市議会に限らずほぼ全ての地方自治体において、その機能は不十分」と、二元代表制の現状を語る。市政運営の細かなルールは執行で作成し、各事業案件の是非は執行が提供する情報に基づいてチェックする仕組み。「議会が決めた市政運営のルールに則り、執行状況をチェックできる状態まで進化させたい」の理想は、限りなく高い壁に阻まれている。それでも「少なくとも議会にはその責任がある」と、言葉に自覚と自戒を込める。

 経営者らしい発想で期待を寄せるのは、民間企業の資金力と事業運営能力を活用する「民活」だ。税収増に向けた投資として、民間の工業団地造成や企業誘致、市民プール再建などに、その活用を提案する。人的投資として挙げたのは保育・介護・看護などの学生への市独自の奨学金制度の充実。「こうした人材の確保が困難を極め、早急な対応が必要」と訴える。

 高校卒業後に携わった家業の飲食店経営で、社会人としての経験不足を感じた19歳の時。バスを乗り継ぎ米国を一周する旅に出た。ロスを起点にメキシコ・アカプルコに抜ける45日間の旅の途中、ニューヨークに立ち寄った。摩天楼のビル群に立った時、1年後にはこの地で生活してみようと決めた。米国で語学学校にも通い、飲食店の出前注文の電話を受けながら英語を覚えた。3年と決めていた滞在は6年に及んだ。

 ニューヨークで刺激を受けたラテンジャズやサルサなどの新しい音楽文化。帰国後に地元の人に楽しんでもらおうと、自身経営のお店に毎月、東京から演奏家を呼でみたが、商売としては続かない。市議立候補の動機のひとつは「こうした音楽の楽しさを行政にも手伝ってもらい広めることができたら」。もっともいざその立場になると「他に対応すべきことが山ほどあり」、手つかず状態が今も続いている。(2021年11月28日)

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 【国政は立憲民主党が惨敗した衆院選総選挙が終わり、来夏には参院通常選挙が行われる。この間、伊勢崎市議選(4月24日投開票)を控えている。そこで市政の現状について伊勢崎市議会の正副議長に、それぞれの目を通した考え方、取り組みを聞いた。1回目は須永聡副議長】

「より開かれた議会改革に期待」市議会基本条例制定 

 議会運営の原則・責務や機能強化、災害時対応などを定めた市議会基本条例案が意見公募を経て、来年3月定例会に議員提出議案として上程される見通し。制定過程の意義と明文化による「より開かれた議会改革などへの取り組みの加速」に期待を寄せる。県内では既に制定自治体もあるが、市条例案は制定で終わらせず、選挙ごとの任期開始後に検証、見直し、市民への公表、改正と踏み込んでいる。

 使い道や透明性が求められる地方議会の政務活動費。領収書、視察等報告書、会計帳簿を会派ごとにホームページで公開し「交通費以外は1円まで領収書を添えて報告している」とその透明性を誇らしげに語る。一議員の上限額は月額3万5千円で、会派所属議員数に応じ、原則4半期ごとに交付される。旅費算定を定額から実費支給、前払いから後払いに変えたのは2017年度から。「年度当初は持ち出しが多くて」と、それなりの窮状に頭をかく。

 とはいえ市議会が他自治体先進地に後れをとっている部分も少なくない。また多くの地方議会に共通する、「執行が決めたことを承認しているだけの追認機関」的な市民の受け止め方を否定しない。議会開会や運営の自由度/一問一答による深い議論/政策立案/行政チェックなど、「行政と『真剣勝負』の関係をつくりたい」と意気込みを語る。加えて「議会は制度を変えられる」という「議会の存在意義」を市民に実感してもらう重要性も強調する。

「秘書時代に怒られたことは一度もない」と、14年間仕えた笹川堯元代議士の意外な一面を明かす。笹川氏を政治の師と仰ぎ、その信条「政治とは弱者のためにある」を自らにも課し、政務にあたっている。最初から政治家を志したわけではなかったが、薫陶を受けていつしか「地域の小さな声を拾う」という気持ちが芽生えていった。最後まで迷った就農への憧れは、立候補時に封印している。

 バックパッカーの間ではバイブル的存在の「深夜特急」(沢木耕太郎著)を、学生時代から愛読していた。ワーキング・ホリデーで人気のあるオーストラリアのケアンズ。大学卒業後の半年間は、大自然の中でキャンピングツアー助手や砂金堀を経験するなど青春を謳歌した。現在はコロナ禍もあり、旅に出られないストレスをメダカで癒している。10鉢の水槽の餌代はわずかで「あとは、ほとんどほったらかし状態」の手軽さも楽しんでいる。
(2021年11月17日)

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