伊勢崎市の副市長に4月、元総務省自治行政局公務員部福利課長で北九州市副市長も務めた藤原通孝氏が就任した。下城賢治副市長(昨年4月就任)との2人副市長体制は、2005年の市町村合併以来17年ぶり。昨年1月に就任した臂泰雄市長の肝いりの政策のひとつで、その思いを受けた両氏にインタビューした。第2回目は藤原副市長。

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 赴任してきたばかりでまだ地理もよくわからないまま、ふらりと訪れた三光町の相川考古館。丁寧な説明を受けた様々な展示物の中で、印象に残ったひとつが、国指定重要文化財の埴輪「盛装男子」だった。最近訪れた国立博物館に展示している、同じ古墳から出土した「盛装女子」を思い起こし「いつかどこかで、ご一緒になられるといいですね」と、この話題をロマンチックにまとめた。

 上植木本町の八角形倉庫で注目を集めた「上野国佐位郡正倉跡」(三軒屋遺跡)、近代産業の一角を担った伊勢崎銘仙などの織物産業にもふれ、「地域文化や(藩主が領内に設けた)寺子屋よりも高度な郷学が支えた」と指摘する。「当時は水戸藩ですら14校しかなかった。その中で伊勢崎藩内には25校もあった」と淀みなく数字を並べ、向学心に燃えた藩内の人々の存在を挙げた。

 伊勢崎市の第一印象は「住みやすく、農商工業のバランスがとれた街。それが市政全般にも現れている」。バランスの良さの中にもそれぞれに課題を抱えており、「ここに至る成熟安定期は、時にはある程度のリスクを取ってチャレンジも」と、その必要性を説く。「実際にそうした動きは出てきており、私の仕事は、それらを引っ張ったり、押したりサポートすること」と役割を明確にする。

 まだ全体像が見えず、目につくのは住宅解体跡などの空き地が散見するJR・東武伊勢崎駅南口に広がる駅前再開発・区画整理事業。他自治体にはない風景だが「施行過程の空き地は逆に可能性としてのチャンスと捉えたい」と前向きに語る。外国人の多い地域特性にもふれ、子供たちの家庭での母国語と学校・社会での熱心な日本語学習を評価。静岡県に教育次長として4年間赴任し、「人の一生に大きな影響を与える教育という仕事の奥深さを知った」と振り返る。

 学生時代から毎年、終戦記念日には東京の千鳥ヶ淵戦没者墓苑に参拝している。慰霊とともに胸に刻むのは「戦争を避けるために、自分には何ができるのか」。17年前から始めたブログにも認め、月1回のペースで、その他その時々の思いを綴っている。さまざまな赴任地では「歩くことで周囲が見えてくる」と県内でも前橋・桐生・高崎までを徒歩で散策(帰路は電車)。次は館林の片道33キロに挑む。(2022年9月1日 廣瀬昭夫)

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過去の伊勢崎市副市長インタビュー   吉田文雄氏   村井健三氏
 伊勢崎市の副市長に4月、元総務省自治行政局公務員部福利課長で、北九州市副市長も務めた藤原通孝氏が就任した。昨年4月に就任した生え抜きの下城賢治氏との2人副市長体制は、2005年の市町村合併以来17年ぶり。昨年1月に就任した臂泰雄市長の肝いりの政策のひとつで、その思いを受けた両氏にインタビューした。1回目は下城副市長。

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 「どこかに適地はないかと、市内への企業進出の引き合いが多い」と顔をほころばせる。悩ましいのは今すぐ提供できる土地がないことだ。群馬県企業局で境北部工業団地と南部工業団地周辺などで造成に向けた作業を進めており、市としては周辺環境整備など「今できること」に力を注いでいる。並行して取り組んでいるのが立地既存企業の底上げサポート。

 副市長として産業経済の他、総務、市民、環境、健康推進、農政、建設、都市計画など、日々の施策に関わる部を所管している。地域の活性化や賑わいの復活も大きな課題だが、コロナ禍がもたらした空白の2年間が「とにかくきつかった」とうなだれる。花火大会や各種のお祭りなど「新しく始めるようなもの。お囃子の指導者も見つからない」などダメージも深刻で、新たな賑わいの創出には、さまざまな協議会の設置で打開を図る。

 「そういうことだったのか、国の考え方や方向性は」。高い見識と情報の引きだしの多さに驚かされ、刺激を受けたのは藤原通孝副市長の日々の市政への取り組み。それぞれに担当所管はあるが、垣根を超えた「情報の共有化」の重要性を痛感し、臂市長が掲げる「Transforming Our World」(私たちの世界を変革する)に向けてタッグを組む。一人副市長の重圧から解放されたことに対しては「頼り切ってはいけない」と自戒する。

 行政側にとっては、まさかの中止に追い込まれた、波志江沼への新観覧車建設問題。その最中は秘書課係長としてマスコミ対応に忙殺された。市政が大きく揺れた過去にふれた時は複雑な表情をみせた。胸を張ったのはコロナ対策。12歳未満は当時、対象外でワクチン接種できなかったため、PCR検査キットを幼稚園、保育園、小学校などに配った。接種現場には職員も派遣している。

 40年ほど前に市職員のバレーボールチームで全国大会に出場した。高じて子供のミニバレーチームでは、指導者として多くの時間を割いた。最近とりわけ気になっているのが”激太り”。コロナ禍で家飲みも増え"休肝日"を求められている。対策のひとつが家庭用自転車マシンの導入。総務部長時代に片道2キロの自転車通勤実績もあり「30分程度、ほぼ毎日こぐようにしている」と、その効果に期待をかける。(2022年8月24日 廣瀬昭夫)

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過去の伊勢崎市副市長インタビュー   吉田文雄氏   村井健三氏
【写真】国内の7月9日の朝刊各紙一面トップ見出しは「安倍元首相撃たれ死亡」で横並び。写真は毎日新聞の狙撃直後の様子が生々しく痛々しい

地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説(ゲストエッセイ)4-2
安倍晋三元首相についての2論説-2(22年7月20日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方など、わかりやすい翻訳でお届けしています(電子版掲載から本サイト掲載まで多少の時間経過あり)。伊勢崎市在住の翻訳家、星大吾さんの協力を得ました。
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安倍晋三による日本再興の失敗/ゲストエッセイ/中野晃一(上智大学教授)

 東京より。7月8日に安倍晋三元首相が狙撃され、その衝撃からやっと立ち直りつつある日本では、平和主義的な憲法改正など安倍氏による日本の再軍国主義化の構想が、その死後も継続されるかに関心が集まっている。

 日本で最も長く首相を務めた安倍氏は、国内では圧倒的な存在感を示し、海外でも影響力のある政治家であった。彼は、よりグローバルに展開する日本を提唱し、米国、オーストラリア、インド、日本の4カ国同盟を推進し、インド太平洋地域構想そのものに着手したと評価されることもある。

 また、攻撃的な軍事力の保持を禁じる戦後憲法の改正(これは果たされることはなかった)を中心に、より軍事的に強固な日本を構想していた。このような構想を実現するため、支持者たちは、強大化する中国への恐怖を駆り立てた。

 しかし、日本はそろそろ安倍氏だけでなく、彼の国家主義的な再軍備政策にも別れを告げるべき時が来ている。日本の政治的・経済的資源は、憲法改正や防衛費増額ではなく、外交による平和の維持と、長年にわたる安倍氏のトリクルダウン(富裕層支援)政策によって揺らいだ経済の回復に集中すべきである。

 さらに言えば、米国が中国との対決に重点を置いている今、日本は謙虚に、そして平和主義的に、中国と米国の間の緊張を緩和するため、北京と再び関係を結ぶことによって重要な役割を果たすことができるのである。

 安倍氏は、2日後に迫った国会議員選挙のために自民党を代表しての選挙活動の最中に撃たれた。その死後には、単純化された賛美の言葉によっては正当化することのできない、いまなお議論があり波瀾に満ちた「遺産」が残されている。

 国内では、安倍氏は反対者を黙らせる傲慢な弾圧者と見られていた。憲法、国会、メディアのチェック・アンド・バランスは彼の在任中には機能せず、政治スキャンダルをめぐって国会で118回もの虚偽陳述をしたことは有名である。

 その歴史修正主義は、韓国や中国など戦時中の日本の残忍な侵略行為に対する怒りがいまだにくすぶっている近隣諸国から不必要に怒りを買った。2013年12月には、第二次世界大戦時の戦犯を含む日本人の戦没者を祀る靖国神社に参拝し、米国から異例の非難を浴びている。彼はまた、日本軍の慰安婦として何千人もの女性をアジアに強制連行したことを含め、日本の第二次世界大戦の蛮行を隠蔽する学校教科書を支持している。

 しかし、安倍氏の経歴において、何よりも日本の国柄とアジア地域における役割を変えてしまいかねないものであったのは国際紛争解決の手段としての戦争を放棄し、日本の軍隊を自衛的役割に限定する憲法9条の改正への取り組みであった。1945年以来、日本が戦争に直接関与せず、経済大国への道に集中できるようにした平和への公約を捨てる理由がないと考える何百万人もの日本人は不安を感じた。

 安倍氏は2006年から2007年、2012年から2020年の2度にわたって政権を担当したが、憲法を変えることはできなかった。その代わり、一定の条件下で同盟国を軍事的に支援することを認める解釈変更に落ち着いたが、これは違憲との批判を受けている。

 自民党の右派が無党派の旗手を失った今、日本が9条を見直すことはないだろう。軍政によって戦争に突入し、アジアに甚大な被害をもたらし、完敗し、唯一の核被爆国となったこの国には、平和への強い思いがある。

 NHKが6月下旬に行った世論調査では、選挙の優先順位で憲法改正を挙げた人はわずか5%で、43%が経済を挙げた。5月の世論調査では、9条改正への世論は賛成50%、反対48%と割れており、70%が改正の機運は高まらないと答えている。

 長きに渡り優勢だった自民党および連立与党は、憲法改正のための国民投票を開始するために必要な3分の2の多数を、参議院で確保した。しかし、これは安倍氏が殺害される前から予想されていたことであり、連立与党の勝利は安倍元首相支持というより、野党内の分裂によるものであった。安倍氏自身でさえ、政権を担当した数年間は3分の2の多数を占めていたにもかかわらず、政治的リスクを理由に国民投票をあえて推し進めようとはしなかった。

 岸田文雄首相に注目が集まっているが、憲法改正に反対してきた自民党の穏健派の代表である岸田氏に国民は何を期待すべきか分からない。これは安倍氏の存在がいかに煙たいものだったか(安倍氏は党の指導者の間で公然と異議を唱えることを禁じていた)を物語っている。選挙後、岸田首相は防衛費の増額を約束し、憲法9条に再び注目することを約束したが、それが亡くなった安倍氏への礼儀以上のものであると考える根拠は乏しい。

 いずれにせよ、岸田首相の手腕が強化されることは間違いない。安倍氏は明確な右派の後継者を残しておらず、彼の死は派閥を混乱させ、岸田首相が国家的な議題に対してより大きな支配力を主張する機会を与えることになる。

 これには、20年にわたる経済停滞を脱却するため安倍元首相が第2次政権で打ち出した財政・金融緩和政策「アベノミクス」による急激な政府支出や規制緩和から脱却するための支持を得ることも含まれる。企業収益は上がったが、公的債務は積み上がり、大胆な構造改革は行われず、賃金は低迷したままだった。そこにパンデミック(世界的大流行)が起きた。円安、インフレ、そしてコロナウイルス感染である。

 岸田首相は、賃上げと貧富の差の是正を最優先するよう主張している。そのためには社会保障費を増やす必要があり、安倍氏が求めた今後5年間の防衛費倍増と衝突するのは必至である。安全保障よりも経済が国民の関心事である以上、岸田首相には9条改正のために貴重な政治資金を浪費する余裕はないだろう。

 対中政策については、岸田首相は安倍政権の外相時代には自らの外交ビジョンをほとんど明らかにしていないが、岸田派は伝統的に中国と関わってきたため、今後は北京との対話を重視した政策を進めることが可能と考えられる。

 安倍氏の悲劇的な死は、後継者たちが安倍氏の影響かから抜け出し、その政策を見直す機会となった。

 9条の保障を撤廃し、日本を再軍国主義化することは、中国との緊張をさらに高め、日本とアジア地域に壊滅的な影響を与えかねない軍拡競争を招くだけである。逆に、平和への公約を再確認すれば、国内資源を経済に集中させることができ、外交による平和を基礎にした近隣諸国とのより良好な関係への扉が開かれる。

 今こそ、安倍氏の遺した「剣」を暮らしのための「鋤」へと打ち直す時である。

 星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowers」における空間と時間 人文地理学的開設」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。

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【写真】凶弾に倒れた安倍晋三元首相

地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説(ゲストエッセイ)4-1
安倍晋三元首相についての2論説-1(22年7月9日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方など、わかりやすい翻訳でお届けしています(電子版掲載から本サイト掲載まで多少の時間経過あり)。伊勢崎市在住の翻訳家、星大吾さんの協力を得ました。
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「安倍晋三による戦後日本の再建」/ゲストエッセイ/トバイアス・ハリス(著書に『The Iconoclast:Shinzo Abe and the New Japan』)

 2007年1月、安倍晋三は第166回国会開会式後、戦後最年少となる52歳で首相に就任してわずか数カ月で、自らの政策をまとめた演説を行った。

 演説の大半は、ありふれた政策を並べたものにすぎなかった。しかし、その中に、安倍晋三という人物の人となりがよくわかる一節があった。「私の使命は、今後50年、100年の荒波に耐える新しい国家像を描くことにほかなりません」。

 私は、安倍元首相についての著作を執筆中も、そして金曜日に起きた暗殺について考えるときも、たびたびにこの台詞に立ち返っていた。彼は小さな考えに満足するような政治家ではなかった。彼の家族は西日本の山口県出身である。1867年、天皇が復権し、倒幕派が近代国家を建設した明治維新。山口県はその立役者たちの故郷である。彼は、それらの指導者たちを尊敬していた。

 明治日本の指導者たちが築こうとしていたのは、単なる近代国家というだけではない。アジアを蹂躙する欧米列強に対抗できる国家を作ろうとしたのである。安倍元首相が「荒波に耐える国づくり」と言ったように、その基本的な感覚を彼も共有していた。

 安倍元首相は国益主義者であり、自国が国家間の激しい競争にさらされていると考え、政治家の使命は何よりもまず国民の安全と繁栄を確保することだと信じていた。しかし、彼は同時に国家主義者でもあった。つまり、その義務を果たすのは、最終的には国家とその指導者の責任であると考えたのである。したがって、安倍元首相が理想主義者か現実主義者かという議論は的外れである。彼は、世界の危険な状況の中で日本国民を守るために、日本国家を強化しようとする政策を繰り返し行ってきた。

 例えば、安倍元首相や他の保守的な政治家たちが、日本版愛国心教育を学校に導入し、彼が「自虐史観」と考える戦時中の残虐行為を論じた歴史を教える教科書を選択排除したことなど、一見イデオロギー的に見える決定も、根本的には国家の強化につながるものだった(教科書の選択排除がその目的を達成するかどうかは別として)。彼を批判する者たちは、これにより日本の平和維持を支えていると信じられていた教科書の中核的な思想が弱められることを懸念した。しかし彼は、強い国家には、自国に誇りを持ち、必要なら武器を取ってでも国のために犠牲を払う国民を育てることが必要だと考えていた。

 安倍元首相の国家主義は、他の分野でもわかりやすい。「戦後レジームからの脱却」、すなわちアメリカの占領下およびその直後に導入された制度の自律的撤廃というスローガンを第一次内閣の時に使い、第二次内閣の時もこのスローガンは彼の政策構想を特徴づけるものであった。特に戦後憲法とその第9条(戦争放棄の平和条項)は、日本の自衛能力を制約していると考えた。

 2期目には、憲法9条を解釈変更し、集団的自衛権の行使を認めるよう政府に指示し、一定の場合には同盟国の軍隊を支援することができるようにした。その後、9条を含む憲法改正を提案し、2020年までに批准すると公約したが、失敗に終わった。

 このように、安倍元首相は過去を反省する国ではなく、米国や他の同盟国のような強固な国家安全保障体制を備えたトップダウン型の政府を作りたかったのであろう。北朝鮮が核武装し、中国が経済力とともに軍備を増強していく中で、この構想はさらに急務となった。彼は北京と政治的・経済的に安定した関係を維持することに否定的ではなかったが、中国が日本の安全保障にもたらす危険性について決して目をつぶることはなかった。

 アベノミクスと呼ばれる金融、財政、産業政策の三本柱でハイテク産業や持続可能な労働力を育成する政策も、安倍元首相の国家主義を反映している。彼は遅ればせながら、日本が他国と競争するためには、長期的な経済停滞を終わらせる必要があると考えるようになったのだ。

 日本国家を強化するという安倍元首相の構想は万人受けするものではなかった。国家、特に安全保障体制を強化するという彼の熱意は、しばしば大きな反発を招いた。年配の日本人は、戦時中の日本の姿が脳裏に刻まれており、日本の軍事力の再構築に抵抗があり、若い日本人も時には動員され、彼の動きに反対した。

 しかし、安倍元首相が亡くなったとき、日本人はようやく彼の構想に賛同するようになったのではないだろうか。ロシアのウクライナ戦争もあり、軍事費増額支持の声が強まった。

 自称リベラル派の岸田文雄首相までが、自衛隊の戦力強化のための軍事費増額に賛成している。これは、安倍元首相の30年のキャリアにおいて、自民党がいかに彼の構想に共感していたかを示している。

 安倍元首相の判断は必ずしも常に適切ではなく、その行動は権威主義的な面もあったが、21世紀の「荒波に耐える」ための政策をより明確に打ち出し、実行できる国家を日本に残したと私は考えている。

 時に孤独な戦いを続けた安倍元首相は、世界の危険な状況の中で自国を守れる強い国家というビジョンを日本人が理解し始めた矢先に突然の死を迎えることとなった。



 星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowers」における空間と時間 人文地理学的開設」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。

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【写真】ロヒギャン難民特別支援を行っているアース・カンパニーHPより

地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説3
「ミャンマーの民主化運動家」(2022年6月23日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方など、わかりやすい翻訳でお届けしています(電子版掲載から本サイト掲載まで多少の時間経過あり)。地元の翻訳家、星大吾さんの協力を得ました。第3回目はミャンマー少数民族ロヒンギャの国内最大コミュニティー「在日ビルマロヒンギャ協会」が、群馬県館林市内にあることなどもあり、取り上げました。
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 我が国ミャンマーにもロシアに対するように天然ガスへの制裁措置を(2022年6月23日 ニューヨークタイムズ ゲストエッセイ)

ティンザール・シュンレイ・イー(ミャンマーの民主化運動家)

 ミャンマーの近代史は、植民地支配、軍事的抑圧、暴力、民主主義の否定の歴史である。私のような草の根の活動家、そして先達である何千もの活動家は、これを変えるために命を捧げ、身の安全を犠牲にしてきた。しかし、この1年で、事態はより深刻となっている。

 数十年に渡りミャンマーを支配してきた残忍で腐敗した軍部は、2021年2月に選挙で選ばれた指導者を打倒し、以降抗議する者を銃殺し、反対する者を拷問し、ミャンマーを混沌に陥れた。

 米国は当然のことながら、軍部を非難し、制裁措置を講じている。しかし、米国は、国民を弾圧する軍事指導者を弱体化させるための単純な措置、すなわちミャンマーのガス収入に制裁を加えることは控えている。

 ミャンマー石油ガス公社(MOGE)は、現在政府の管理下にあり、海底油田から採取した天然ガスの販売により、少なくとも年間15億ドルの収入を得ていると推定されている。このガスは、軍が罪のない市民に向ける銃弾や軍事費としての交換可能通貨の約半分を供給している。制裁を行い、長きに渡りミャンマー国民への弾圧を支えてきた重要な収入源を断ち切ることで、人々の命を救うことができる。

ミャンマーは1948年にイギリスの植民地支配から独立したが、1962年にタトマダーと呼ばれる軍事政権が権力を掌握した。それ以来、将軍とその取り巻きがミャンマーを支配し、鉱物、木材、エネルギーなどの天然資源から利益を得ながら、アジアの他の何百万もの人々が恩恵を受けている経済成長を自国民から奪うという自虐的な政策をとってきた。公衆衛生は悪化し、汚職、麻薬取引、その他の犯罪が横行している。少数民族は数十年にわたりタトマダーによる人権侵害を受け、民族組織は絶え間ない内戦状態の中で抵抗のために銃を手にした。ミャンマーの新しい世代は、もはやこうした状況には耐えられないだろう。

私たちは、2015年の選挙で国民が声を揃え民主化を支持したことで、ミャンマーの民主化移行が真の意味で飛躍することを期待していた。ちょうどインターネットが一般人にも手が届くようになり、私たちは外の世界を意識するようになり、世界の民主化運動とつながりをもつことができるようになった。

 その後数年の間に、私たちは多くの少数民族の処遇についても知るようになった。ミャンマー軍は2015年の選挙後、ロヒンギャ族に対する大量虐殺の罪で告発された。私たちが投票したアウンサンスーチー女史率いる文民政権がこれらの惨状を擁護したことに、私たちは大いに失望した。軍は実質的な権限を保持していたが、私たちを檻に戻すことは難しかった。そして、昨年のクーデターである。

 ミン・アウン・ハリン上級大将が主導し、民主派が選挙で圧勝した後にそれは起こった。市民による非暴力の抗議運動に対して、無差別殺戮、拷問、強制失踪、人間の盾としての利用など、恐るべき弾圧が行われた。国連によると、少なくとも142人の子供を含む1900人以上が殺害され、13,500人以上が政権への反抗を理由に逮捕された。

人口5400万人の我が国は今、奈落へと落ちつつある。100万人が国内避難民となり、推定1400万人が緊急に人道的援助を必要としている。国家機関やすでに弱体化している医療制度は崩壊の危機に瀕している。私たちは国中で抵抗している。何万人もの人々がジャングルで武装し、少数民族の抵抗組織の支援に頼っており、その結果、タトマドーの空爆や砲撃に曝されている。しかし、欧米からの支援はごく限られたものである。

 バイデン政権はミャンマー政府の資金10億ドルを凍結し、ミャンマーの軍事指導者たちの大部分と、彼らの資産となっている宝石、木材、真珠産業に対して制裁を課した。しかし、MOGEと合弁事業を行っているシェブロンがロビー活動を行う中、バイデン大統領はガス収入をターゲットにすることを控えた。

 それさえ可能ならば、政権財政に大きな打撃を与えることができる。MOGEの事業は、国家にとって唯一にして最大の収入源である。その多くは、シェブロンとフランスのトータルエナジーズがMOGEやタイのエネルギー企業とともに運営している主要なガス田から得られている。シェブロンとトータルエナジーズの両社は、天然ガスはミャンマーの電力の一部を賄っているため、制裁が行われればミャンマー国民は深刻な停電に見舞われると主張している。しかし、制裁によってガスを止める必要はないし、自由と安全を数時間の電気と引き替えにしろという提案には強い憤りを覚える。MOGEへの制裁を求める声は、海外からのものではない。ミャンマー国内から、軍への平和的抵抗に参加した何百もの市民社会組織、活動家グループ、労働組合らが声をあげているのだ。

 今年、トータルエナジーズとシェブロンはミャンマーから撤退する計画を発表した。しかし、政権が引き続きMOGEを通じてガス収入を得続けることは可能であろう。

 EUはMOGEに制裁を課したが、そこには穴があり、悪用の可能性がある。ロシアのウクライナに対する戦争能力を制限するために採用されたような、米国主導の実効性のある制裁が必要だ。

 数十年にわたる軍の支配と悪政によってミャンマーに蓄積された問題のすべてを解決することは不可能であろう。しかし、まずはタトマダーが飛行機や爆弾、弾丸、ジェット燃料、監視装置などの弾圧の手段を輸入できないようにすることから始めなければならない。私たちは、軍事的支配から解放され、平和と繁栄と、民族を問わずミャンマーのすべての人々のための真に民主的な未来を望んでいる。

 ガス収入がある限り、ミャンマーの人々の血は流れ続ける。

星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowers」における空間と時間 人文地理学的開設」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。

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【写真】ニューヨークタイムズ本社

地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説2
悲しき銃社会(2022年5月28日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方などを今後、不定期に翻訳、掲載します(NT掲載から本サイト転載まで多少の時間経過あり)。電子版からの翻訳で、地元翻訳家の星大吾さんの協力を得ました。
 星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現 白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowersにおける空間と時間 人文主義地理学的解読」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。
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 米国は、自国民を守る力を日々失いつつあるようだ。イースト・バッファローでの銃乱射事件に続き、テキサス州ユバルデの学校で銃乱射事件がおきた。この数日間、多くのアメリカ人が、失われた命に対し信じられないという思い、悲しみ、疲労、そして怒りを感じている。こうして心を痛め生きることのほかに何ができるというのだろうか。

 ユバルデの警察は驚くべき無能さをさらした。スティーブン・C・マックローテキサス州公安局長によると、「危険な状態の子供はいない」と判断され、警察がようやく犯人確保に向かったのは犯人が中に入ってから78分後のことだったという。一方、911通報係は教室内から何度も通報を受けおり、その中には警察を呼んでほしいと懇願する子供の声もあった。その結果はどうなったか。犯人はロブ小学校の19人の児童と2人の教師を殺害した。

 マックロー氏は、判断ミスが複数あったことを認めた。現場にいた指揮官が犠牲者の家族に謝罪する必要があるかという質問には、「遺族のためになるならば、私自身が謝罪することも辞さない」と答えている。

 現地には、学校内で銃声が鳴り続けるなか恐怖におののき警官に突入と子供たちの救出を懇願する親たちが集まっていた。しかし、警察は彼らを引き留めていた。一人の母親は手錠をかけられたが、隙を見てフェンスを乗り越え、子供を助けるために学校内を走り回った。その間警察は、彼女によれば、「何もしていなかった」。
警察官達は何年も前からこのような事態を想定した訓練を受けていた。しかし、いざというとき、子どもたちのいる学校でアサルトライフルを振り回す犯人を止めることはできなかった。

 TikTokを投稿し、デニムのジャケットを着て、毎朝学校に行く途中で「Sweet Child o' Mine」を歌うのが好きだったレイラ・サラザール。彼女のような子どもたちの死は筆舌に尽くしがたい大きな悲しみである。

 レイラの祖父、ヴィンセント・サラザール氏は、タイムズ紙に「彼らは私たちからあの子を奪った」と語っている。「残された家族は、どうやって傷ついた心を癒したらいいのか?」

 イルマ・ガルシアはロブ小学校の教師で、古いロック音楽が好きだった。彼女の甥によると、彼女の遺体は子供たちに抱かれた状態で発見された。生き残った4年生は、「ガルシア先生とエバ・ミレレス先生が僕たち生徒の命を救ってくれた」と語った。「先生たちは僕らの前に立っていたんです。僕らを守るために。」

 悲劇に悲劇が重なり、国民の疲弊感は深い。バッファローでは、5月14日にスーパーマーケットで起きた銃乱射事件の犠牲者のために、金曜日に3つの葬儀が行われた。10人が死亡し、3人が負傷した。

 「まるで年中行事だ。何度も何度も繰り返されている」と、犠牲者の一人、ジェラルディン・タリーの息子であるマーク・タリー氏は木曜日の記者会見で述べた。

 バッファローでは、白人の犯人がAR-15スタイルのアサルトライフルで黒人の多い地域を狙った。彼は、アメリカ白人が移民や有色人種に追いやられつつあるという、「大交代」論と呼ばれる人種差別的陰謀論の信奉者であった。共和党員の半数近くが最近、世論調査に対して「権力者が政治を動かすために移民を集めている」という陰謀論があり得ることだと答えている。

 妄想狂と銃器。この組み合わせは、これまで何度も悲劇を引き起こしてきた。「このような殺戮を喜んで受け入れるなどとどうして思える?」 バイデン大統領は火曜日、国民に問いかけた。

 大量殺戮の銃声の響きが消えぬ間に、次なる殺人が起こっている。家族によると、被害者の夫、ジョー・ガルシア氏は木曜日に心臓発作で亡くなった。50歳のガルシア氏は、木曜日の朝、妻の追悼式から帰宅したところで、倒れたという。

 このような事態に、国民はいつまで耐えなければならないのか。その問いは至極当然である。腹立たしいことに、その答えはこうだ。2022年の最初の21週間で、米国では213件の大量殺戮があった。毎日、平均321人のアメリカ人が撃たれている。そして毎日、概ね5万件以上の銃売買が記録されている。適切にメンテナンスされた銃は、何十年も新品のように発砲することができる。

 20人の子供と6人の教師が死亡した2012年のサンディフック小学校(コネチカット州ニュータウン)の大虐殺以降、アメリカはもはや悲劇に耐えることをやめ、銃器団体は今後力を弱めていくと期待されていた。

 10年の時が過ぎた今、そのどちらも実現してはいない。金曜日、ドナルド・トランプ前大統領、テキサス州のテッド・クルーズ上院議員、サウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事、ノースカロライナ州のマーク・ロビンソン副知事が、ウバルデから車で数時間のヒューストンで開かれた全米ライフル協会の年次大会に出席し、講演を行った。これほどまでに銃器団体が共和党の大部分を完全に掌握していることを示す事実は他にない。

 全米の各州は、レッドフラッグ法、身元調査、購入年齢制限など、効果的な銃の安全対策となる法案成立させるために、少しずつではあるが前進している。しかし、これらの州は厳しい逆風にさらされている。今月、連邦裁判所は、半自動小銃の購入年齢を21歳に設定したカリフォルニア州の法律を取り消した。とはいえ、議会は現在、特定の銃を子供たちに宣伝することを制限し、カリフォルニア州民が銃製造業者を訴えることを可能にする、法案を審議中である。なんであれ銃の入手を容易にしないことは望ましいことだ。

 ニューヨークでは今週、連邦判事が、公共の安全を脅かした企業に民事訴訟を認める法律に対する銃器団体の異議申し立てを退けた。またキャシー・ホッホル州知事は、一部のアサルト・ウェポン購入の年齢制限を21歳に引き上げるよう議会に要請した。テキサスの銃乱射事件では、犯人は18歳の誕生日を待って、2丁のアサルト・ウェポンと数百発の弾薬を購入していた。

 ワシントンDCでは、本人や他人に差し迫った危険があると判断された場合警察が銃を取り上げることを可能にする、ある種の国家的な銃規制法について共和党と民主党の議員が成立に合意する可能性があるという話もある。

 コネチカット州のクリス・マーフィー上院議員(民主党)は、超党派の議員グループを率いて、より包括的な連邦身元調査制度の確立を検討している。この改革はアメリカ人の88%が支持している。

 我々は、これまで銃の安全対策に関するこうした超党派の取り組みが、結果を出さずに終わるのを目の当たりにしてきた。それでも、共和党の強硬な姿勢に直面する民主党、特にバイデン大統領は、最善を尽くすべきである。サンディフック事件以来、銃規制強化の先頭に立つマーフィー上院議員は、先週の上院の議場で、現状を巧みに表した言葉を述べている。

 彼は「私たちは何をしているのか?」と議員たちに問いかけた。「虐殺が増え、子供たちが必死に逃げ惑う中、その答えが『何もしていない』であるなら、なぜ、この仕事に就き、名誉ある立場に身を置くということをあえてしているのか」。

 この質問は、上院に直接語りかけるものであり、より広くアメリカ政府の制度全体に語りかけるものである。たしかに、この国の民主主義制度は、銃に対する多様な意見を代弁するものである。しかし、現在の構造では、議会は最も弱い立場にある市民の訴えに根本的に応えておらず、強力な利益団体によって腐敗し、そうした団体によって大多数のアメリカ人が支持するささやかな変更さえ阻止されてしまう。

 我々アメリカ人は皆、この広大な国を共有し、この国をより良くする方法を考え、互いを生かし、繁栄させる必要がある。今、我々はその大きな責任を果たせずにいる。州レベルでは、事態が変わりつつある希望の光が見えている。しかし、その前進は耐えがたいほどに遅く、対策が講じられるまで今日も、明日も、そしてこれからも毎日、何百人ものアメリカ人が撃たれることになるだろう。(2022年6月4日)

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【写真】ニューヨークタイムズ電子版社説(22年4月6日付)ページ

地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説 1
ウクライナにおける戦争犯罪の記録(2022年4月6日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方などを今後、不定期に翻訳、掲載します(NT掲載から本サイト転載まで多少の時間経過あり)。電子版からの翻訳で、地元翻訳家の星大吾さんの協力を得ました。
 星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現 白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowersにおける空間と時間 人文主義地理学的解読」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。
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 破壊された戦車、焦げついた壁、裂けた木、そして泥にまみれ転がる死体…ブチャを始めとするウクライナの都市におけるこれらの凄惨な画像は、ウラジーミル・プーチンが始めた戦争の残虐性をなによりも物語っている。ロシア軍の撤退に伴い、このような惨状がさらに明らかになると考えられ、戦争犯罪の追求を求める声が高くなっている。
 バイデン大統領は戦争犯罪裁判を求め、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、戦争犯罪であることが「明らかである」と宣言した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、強姦や略式処刑の事例を文書化して報告した。ウクライナおよび国際的調査団はすでに証拠の収集と目撃者への聞き取り調査を始めている。これらの調査は迅速かつ慎重に行うことが求められる。
 無数の市民が、ロシアの砲弾が自分の住居に当たらないことを祈り、家の中で身を伏せている。このようなときに、証拠の解析や、目撃者への聴取は、法律主義に過ぎるように映るかもしれない。あたかも戦争にルールがあり、敵への死と破壊に正しい方法があるかのような考え方は理解しがたいし、指揮官への起訴は勝者の正義とみなされる危険性をはらむ。
 少なくとも75年前から、国際社会はいわれのない侵略戦争をそれ自体が犯罪であると定めるため、現実的な(それゆえに不完全な)取り組みを行ってきた。ニュルンベルク裁判の言葉を借りれば、「したがって、侵略戦争の開始、単なる国際犯罪であるだけでなく、他の戦争犯罪とは異なり、それ自体が巨大な悪の集合であるという点で最悪の国際犯罪」である。

 ウクライナにおいては、ロシアが侵略者であることに疑問の余地はない。5週間にわたってロシア軍に占領されていたウクライナの町ブチャも、マリウポリ、ハリコフ、チェルニヒフ、キエフ、その他多くの都市。プーチン大統領が帝国主義と隣国侵略の野心を満たすためにいわれのない戦争を命じなければ、平和な春の到来を迎えていたことだろう。ウクライナの抵抗は紛れもなく自衛であり、世界各国はプーチン大統領と彼の国に制裁を加える権利がある。ウクライナ軍の武装化を支援し、侵略を困難にすることで、プーチン大統領やその側近が正気に戻るようにする。これは正しいことである。
 しかし、戦闘の霧の中でも容認することのできない犯罪の存在を世界はすでに知っている。客観的な証拠の収集と記録は、この泥沼を切り抜け、いずれ加害者の責任を追及する可能性を残す実効的な方法である。村や病院への攻撃命令を違法とする裁判官が現れ、その法的判断が次の戦争の抑止力となる可能性は、わずかながらでもある。戦争犯罪の捜査は、被害者の尊厳と侵略者の違法性に光を当てるための強力な政治的手段である。
 第二次世界大戦後、さまざまな国際刑事法が定められた。最も有名なのは、ジュネーブ条約(1949年)である。これは民間人への意図的な虐殺、拷問、無差別な破壊行為、性的暴力、略奪、子どもの徴用などの戦争犯罪について、戦闘員の個人的責任を追及することを目的とする。また、ジェノサイド条約や人道に対する罪を禁止する法律も制定されている。

 ロシア軍の行動は、これらの法に違反している可能性が高く、国際刑事裁判所などいくつかの裁判所ですでに捜査が始まっている。都市への無差別砲撃、ブチャの集団墓地で明らかになった大量殺人、マリウポルの劇場への爆撃など、戦争犯罪とみなされかねない行為が数多くある。この侵略行為のすべてが戦争犯罪となる可能性があり、その責はプーチン大統領にも及ぶと思われる。これらの犯罪が、国家政策に基づく民間人に対する広範または組織的な攻撃の一部であると判断されれば、人道に対する罪にも該当する可能性がある。
 ちなみにロシアは、ブチャでの残虐行為はすべて捏造されたものと主張している。また、ウクライナ軍がロシア人や協力者に対して行った残虐行為の証拠を調査官が発見することも十分にあり得る。それならばなおさら、徹底的な調査が必要とされる。
 証拠の収集、起訴の確保、公正な裁判の実施など、正義の実現は困難を伴い、時間と費用がかかる。そのため、戦争犯罪で処罰に至った事例はほとんどない。国際司法裁判所は、大量虐殺、人道に対する罪、戦争犯罪について単独で起訴することができるが、プーチン大統領とその側近に対し最も追求すべき侵略の罪については、国連安全保障理事会が起訴しなければならず、そこにはロシアの拒否権が確実に存在することになる。また、ロシアは国際刑事警察機構を承認しておらず、容疑者を引き渡さないだろう。
ウクライナも国際司法裁判所設立の条約に加盟していないが、ウクライナ国内で起きた犯罪に対する裁判権は認めている。米国は国際刑事裁判所を敵視してきた経緯があり、バイデン大統領はプーチン大統領の戦争犯罪を非難する際も、どのような機関により訴追されるかを明確にしなかった。

 しかし、これらのハードルは、正義の追求を妨げるものではない。たとえ過程が困難で数カ月、数年にわたるとしても、ウクライナにおける具体的な犯罪について、法医学的な、信頼性、検証性があり、司法手続きを経た記録を歴史に残すことが重要である。責任者を明らかにし、その行動を特定するべきであり、可能な限り、罪に対し罰が与えられなければならない。ロシアが残虐行為はすべて捏造だと主張しているという事実そのものが、詳細かつ議論の余地のない司法的対応を要求しているのである。
 バイデン政権とその同盟国は、正確な情報によってクレムリンのプロパガンダに穴を開けるという大きな成果を出した。戦争犯罪についての信頼性のある記録は、今後も同様の目的を果たすだろう。
 バイデン政権は、たとえ法律で資金援助を禁じられていたとしても、証拠収集において国際刑事裁判所と協力すべきである。他の選択肢もある。特別法廷を国連の承認なしに設置することもできるし、米国などいくつかの国が普遍的管轄権を主張し、独自の裁判を行うことも可能だ。しかし、あまりに多くの調査が行われると、法的プロセスの社会的影響が薄れることが懸念される。また、国際刑事裁判所と同等の権威・権限を持つ法廷が他に存在しない。

 いずれにせよ、プーチン大統領やウクライナでの戦争犯罪の責任者に対して正義を求めることを、長期的な目標として考えなければならない。ロシアは撤退しているのではない。東部への攻撃に備え、軍備を整えているのだ。和平交渉へのロシアの参加は、戦略的なものと考えられる。ブチャの惨状によって、ウクライナへのより強力な兵器の提供と、ロシアへのさらなる制裁が求められている。欧米のウクライナ支援の焦点が、これらにあることに間違いはない。
 しかし、ブチャなど多くの場所で示されている犯罪的残虐行為の恐るべき証拠を、現存するうちに迅速に収集し、目撃者の記憶がまだ新しいうちに聴取することも必要である。後世の人々は、何が本当に起こったのかを知らなければならない。それは正義のためにしておかなければならないことである。(2022年5月23日)

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