【写真】ニューヨークタイムズ電子版社説(22年4月6日付)ページ

地元プロが翻訳 ニューヨークタイムズ社説 1
ウクライナにおける戦争犯罪の記録(2022年4月6日付)

 米国の高級紙、ニューヨークタイムズ。その社説から、日本人にとって関心が深いと思われるテーマ、米国からみた緊張高まる国際情勢の捉え方などを今後、不定期に翻訳、掲載します(NT掲載から本サイト転載まで多少の時間経過あり)。電子版からの翻訳で、地元翻訳家の星大吾さんの協力を得ました。
 星大吾(ほしだいご):1974年生まれ、伊勢崎市中央町在住。伊勢崎第二中、足利学園(現 白鳳大学足利高校)、新潟大学農学部卒業。白鳳大学法科大学院終了。2019年、翻訳家として開業。専門は契約書・学術論文。2022年、伊勢崎市の外国籍児童のための日本語教室「子ども日本語教室未来塾」代表。同年、英米児童文学研究者として論文「The Borrowersにおける空間と時間 人文主義地理学的解読」(英語圏児童文学研究第67号)発表。問い合わせは:h044195@gmail.comへ。
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 破壊された戦車、焦げついた壁、裂けた木、そして泥にまみれ転がる死体…ブチャを始めとするウクライナの都市におけるこれらの凄惨な画像は、ウラジーミル・プーチンが始めた戦争の残虐性をなによりも物語っている。ロシア軍の撤退に伴い、このような惨状がさらに明らかになると考えられ、戦争犯罪の追求を求める声が高くなっている。
 バイデン大統領は戦争犯罪裁判を求め、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、戦争犯罪であることが「明らかである」と宣言した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、強姦や略式処刑の事例を文書化して報告した。ウクライナおよび国際的調査団はすでに証拠の収集と目撃者への聞き取り調査を始めている。これらの調査は迅速かつ慎重に行うことが求められる。
 無数の市民が、ロシアの砲弾が自分の住居に当たらないことを祈り、家の中で身を伏せている。このようなときに、証拠の解析や、目撃者への聴取は、法律主義に過ぎるように映るかもしれない。あたかも戦争にルールがあり、敵への死と破壊に正しい方法があるかのような考え方は理解しがたいし、指揮官への起訴は勝者の正義とみなされる危険性をはらむ。
 少なくとも75年前から、国際社会はいわれのない侵略戦争をそれ自体が犯罪であると定めるため、現実的な(それゆえに不完全な)取り組みを行ってきた。ニュルンベルク裁判の言葉を借りれば、「したがって、侵略戦争の開始、単なる国際犯罪であるだけでなく、他の戦争犯罪とは異なり、それ自体が巨大な悪の集合であるという点で最悪の国際犯罪」である。

 ウクライナにおいては、ロシアが侵略者であることに疑問の余地はない。5週間にわたってロシア軍に占領されていたウクライナの町ブチャも、マリウポリ、ハリコフ、チェルニヒフ、キエフ、その他多くの都市。プーチン大統領が帝国主義と隣国侵略の野心を満たすためにいわれのない戦争を命じなければ、平和な春の到来を迎えていたことだろう。ウクライナの抵抗は紛れもなく自衛であり、世界各国はプーチン大統領と彼の国に制裁を加える権利がある。ウクライナ軍の武装化を支援し、侵略を困難にすることで、プーチン大統領やその側近が正気に戻るようにする。これは正しいことである。
 しかし、戦闘の霧の中でも容認することのできない犯罪の存在を世界はすでに知っている。客観的な証拠の収集と記録は、この泥沼を切り抜け、いずれ加害者の責任を追及する可能性を残す実効的な方法である。村や病院への攻撃命令を違法とする裁判官が現れ、その法的判断が次の戦争の抑止力となる可能性は、わずかながらでもある。戦争犯罪の捜査は、被害者の尊厳と侵略者の違法性に光を当てるための強力な政治的手段である。
 第二次世界大戦後、さまざまな国際刑事法が定められた。最も有名なのは、ジュネーブ条約(1949年)である。これは民間人への意図的な虐殺、拷問、無差別な破壊行為、性的暴力、略奪、子どもの徴用などの戦争犯罪について、戦闘員の個人的責任を追及することを目的とする。また、ジェノサイド条約や人道に対する罪を禁止する法律も制定されている。

 ロシア軍の行動は、これらの法に違反している可能性が高く、国際刑事裁判所などいくつかの裁判所ですでに捜査が始まっている。都市への無差別砲撃、ブチャの集団墓地で明らかになった大量殺人、マリウポルの劇場への爆撃など、戦争犯罪とみなされかねない行為が数多くある。この侵略行為のすべてが戦争犯罪となる可能性があり、その責はプーチン大統領にも及ぶと思われる。これらの犯罪が、国家政策に基づく民間人に対する広範または組織的な攻撃の一部であると判断されれば、人道に対する罪にも該当する可能性がある。
 ちなみにロシアは、ブチャでの残虐行為はすべて捏造されたものと主張している。また、ウクライナ軍がロシア人や協力者に対して行った残虐行為の証拠を調査官が発見することも十分にあり得る。それならばなおさら、徹底的な調査が必要とされる。
 証拠の収集、起訴の確保、公正な裁判の実施など、正義の実現は困難を伴い、時間と費用がかかる。そのため、戦争犯罪で処罰に至った事例はほとんどない。国際司法裁判所は、大量虐殺、人道に対する罪、戦争犯罪について単独で起訴することができるが、プーチン大統領とその側近に対し最も追求すべき侵略の罪については、国連安全保障理事会が起訴しなければならず、そこにはロシアの拒否権が確実に存在することになる。また、ロシアは国際刑事警察機構を承認しておらず、容疑者を引き渡さないだろう。
ウクライナも国際司法裁判所設立の条約に加盟していないが、ウクライナ国内で起きた犯罪に対する裁判権は認めている。米国は国際刑事裁判所を敵視してきた経緯があり、バイデン大統領はプーチン大統領の戦争犯罪を非難する際も、どのような機関により訴追されるかを明確にしなかった。

 しかし、これらのハードルは、正義の追求を妨げるものではない。たとえ過程が困難で数カ月、数年にわたるとしても、ウクライナにおける具体的な犯罪について、法医学的な、信頼性、検証性があり、司法手続きを経た記録を歴史に残すことが重要である。責任者を明らかにし、その行動を特定するべきであり、可能な限り、罪に対し罰が与えられなければならない。ロシアが残虐行為はすべて捏造だと主張しているという事実そのものが、詳細かつ議論の余地のない司法的対応を要求しているのである。
 バイデン政権とその同盟国は、正確な情報によってクレムリンのプロパガンダに穴を開けるという大きな成果を出した。戦争犯罪についての信頼性のある記録は、今後も同様の目的を果たすだろう。
 バイデン政権は、たとえ法律で資金援助を禁じられていたとしても、証拠収集において国際刑事裁判所と協力すべきである。他の選択肢もある。特別法廷を国連の承認なしに設置することもできるし、米国などいくつかの国が普遍的管轄権を主張し、独自の裁判を行うことも可能だ。しかし、あまりに多くの調査が行われると、法的プロセスの社会的影響が薄れることが懸念される。また、国際刑事裁判所と同等の権威・権限を持つ法廷が他に存在しない。

 いずれにせよ、プーチン大統領やウクライナでの戦争犯罪の責任者に対して正義を求めることを、長期的な目標として考えなければならない。ロシアは撤退しているのではない。東部への攻撃に備え、軍備を整えているのだ。和平交渉へのロシアの参加は、戦略的なものと考えられる。ブチャの惨状によって、ウクライナへのより強力な兵器の提供と、ロシアへのさらなる制裁が求められている。欧米のウクライナ支援の焦点が、これらにあることに間違いはない。
 しかし、ブチャなど多くの場所で示されている犯罪的残虐行為の恐るべき証拠を、現存するうちに迅速に収集し、目撃者の記憶がまだ新しいうちに聴取することも必要である。後世の人々は、何が本当に起こったのかを知らなければならない。それは正義のためにしておかなければならないことである。(2022年5月23日)
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「3つの共生」軸に 輝き続けるまちづくり
臂伊勢崎市長に聞く―2022【3】(2022年4月5日)

 『いせ咲く。』は、伊勢崎市が掲げるキャッチコピー。市の花「ツツジ」をモチーフに、「伊勢崎」と「咲く」を組み合わせた造語で「もっと花咲ける街に」の思いを込めている。一方、市政運営のキーワードともいえるのが「3つの共生(世代間・地域間・SDGs)」だ。これらを軸としたまちづくりで、輝き続ける地方都市を目指すという、新年度の取り組みを聞いた。

 ― 子供から子育て世代、勤労者、高齢者まで、あらゆる世代が支えあう「世代間の共生」について、具体的な取り組みを教えて下さい。

 臂市長 新年度に条例制定で支援したいのが、高齢者の社会活動を応援する仕組み。いわば高齢者の「活躍・応援条例」だ。老人会の活動をより活発にし、まだまだ元気な人の地域活動も応援していく。免許返納の一人暮らしでも社会参加を促す、高齢者タクシー利用料金の助成要件も拡充する。教育・保育施設勤務の保育士さんなどが長期間、気兼ねなく産休を取得できる代替経費の助成など、子育て世代の支援環境も整えたい。地域住民や社会福祉協議会などの関係団体と協働し、地域のつながりや相互扶助の機能を高めていきたい。

 ― 市町村合併後の地域の一体感をどのように受け止め、「地域間の共生」を進めますか。

 臂市長 合併後17年を迎えるが、一部にまだひとつになりきれていない状況も見受けられる。支所機能を見直す中で、サービスの平準化、地域の独自性を考えていきたい。伊勢崎市公共施設等総合管理計画を改訂し、適切な資産マネジメントにより中長期的に市全域でバランスの取れた市民サービスを実施。地域間の共生を目指したい。また次の都市計画のマスタープランでは皆さんの理解をいただき、都市政策などを変えていくことも必要だと考えている。

 ― 「SDGs」は2030年までに、誰一人取り残さず、環境・経済・社会などあらゆる面で、より良い持続可能な社会を目指す17の国際開発目標です。市の具体的取り組みを教えて下さい。

 臂市長 環境面では行政組織の環境部を見直していく。女性・障害者雇用とその活躍など、市民の活躍の場をより整えていきたい。市職員が理解を深め、課題を解決するために「SDGsゲーム公認ファシリテーター」を養成する。外国籍の人にとって言葉の壁は高いので、それぞれの外国籍のキーパーソンの方に市の考え方を、広めてもらうような橋渡しも考えている。手話通訳の充実には担当職員養成で対応、という声もあるが、異動などで継続性がない。やはり社会福祉協議会などと連携して人材を確保することが望ましいと思う。民間については市内中小企業のSDGsビジネス推進に「ぐんまSDGsコーチングプログラム」事業費負担金事業も実施していく。

 ― 最後に2年目に向けての意気込みをお聞かせ下さい。

 臂市長 2人副市長体制も整えたこともあり、これから職員の皆さんとともに、本当の意味での地方自治に取り組みたい。伝えているのは「Transforming Our World」(私たちの世界を変革する)。職員は十分なスキルを持っており、やりたいことをもっと前面に出してほしい。職員から変わっていくことが、市民の意識の変化にもつながるはずだ。

 【取材メモ】市内病院、医師会、保健所などの医療連携に触れた時、特例債活用などのスケジュールもあり、やむを得なかったとしながらも「新保健センター計画時に、より幅広い議論ができていれば、医師会の先生方からは保健所も一緒に考えたら、という声が挙がっていたかもしれない」と残念がる。幅広い議論と長期的視野の重要性を改めて自戒した言葉にも受け取れた。
 取材の翌日、市経済界の重鎮から「昨日は市長のところ?」と聞かれた。記事掲載前なのにどうして?の疑問に「ブログで読んだから」と返ってきた。臂市長は市議時代の2011年12月11日の誕生記念日から「継続は力なり」と、日々の活動や感じた事を丹念に綴っている。愚直に記された言葉の一つひとつには人柄がにじみ出ている。市は広報誌や様々なSNSを通して市政情報を発信しているが、市長自らのこうした情報発信は、市民にとっては得難く、市政への親しみや関心を高めることにつながりそうだ。
              
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臂市長ブログ  2021年伊勢崎市長インタビュー
【写真】群馬県伊勢崎保健福祉事務所。左後方建物は伊勢崎佐波医師会病院

市保健所設置に向け費用対効果を検証
臂伊勢崎市長に聞く―2022【2】(2022年3月31日)

 市保健所設置や伊勢崎織物組合所有の土地活用協定締結は、今後の保健行政や中心街の活性化に向けて、数年間をかける新たな取り組み。一方、同じ初でもネーミングライツは、新年度中の実施が見込まれる。「低い市民所得」の要因と改善策も聞いた。

 ― コロナ対策の最前線を担っている群馬県の伊勢崎保健福祉事務所ですが、市はより迅速な対応に向けて、自前の保健所設置に動いています。政令指定都市と中核市(前橋・高崎市が該当)以外の市で保健所を設置する場合、保健所政令市への移行が求められますが、その取り組み状況を教えて下さい。

 臂市長 これまでも山本一太知事をはじめ群馬県には意向は伝えている。新年度はさまざまな角度から、本市が保健所を設置することのメリットとデメリットを検証する。初めて保健所政令市となり、人口規模では伊勢崎市と同程度の神奈川県茅ヶ崎市など、全国に5つある保健所政令市へのアンケート調査を実施していく。そのうえで、あらためて取り組む意義があるか否かを議会や市民の皆さんに示したい。

 ※編集部注:茅ヶ崎市は神奈川県が郊外の衛生研究所内への保健所移転計画を機に、現在地の利便性などを考慮し、2017年4月に保健所政令市。県保健所の建物をそのまま借用、現在に至る。人口(3月1日現在)と一般会計当初予算(2022年度)を比較すると、茅ヶ崎市約24万人/約765億円、伊勢崎市約21万人/約777億円。

 ― 伊勢崎市織物協同組合が曲輪町に所有する土地(7900平方m)活用も新たな試み。市は昨年、組合と協定を結びましたが、どのような活用、事業手法を考えていますか。

 臂市長 組合の協力に感謝し、協定の目的でもある、中心市街地の活性化と持続的発展につながる活用を目指したい。組合の意向を十分に踏まえ、まちのにぎわいを創出し、本市の魅力を発信できる内容を盛り込みたい。複合施設を検討することになると思う。開発手法としてはPPPやPFIなど、官民連携による整備手法導入も視野に入れている。初めての試みとなるだけに我々も学ぶところは多いし、対外的にも市のイメージアップにつながるはず。そんな取り組みになればと思う。

※PPP(公民が連携して公共サービスを提供する枠組み)、PFI(公共施設の建設、維持管理、運営に民間資金とノウハウを活用する事業手法)。

 ― 公共施設の名前(愛称)に企業名や社名ブランドをつける「ネーミングライツ」。既に昨年、需要調査を終えていますが、実施までのスケジュールは。

 臂市長 新年度早々には応募企業の募集を始める予定。募集期間は2か月程度で、審査委員会の審査を経て、優先交渉権者を決める。命名権者との契約後は一定の周知期間を設け、実際の施設愛称の使用は、10月中までにはと考えている。本事業を新たな財源確保の手法として定着させ、本市と命名権者企業の事業効果を検証しながら、対象施設の追加などを考えていきたい。他自治体が先行する事業だが、本市では公共施設に一民間企業名を冠するのは、行政の公平性などから抵抗があったのかもしれない。

 ― 市民にとっては意外、驚愕の「低い市民所得」。就任前の臂市長の指摘で初めて知る市民も少なくありませんが、その要因と改善策を教えて下さい。※最新の2017年度の1人当たりの市町村民所得は、約286万円と群馬県内12市中最低(最高は太田市の約397万円)。

 臂市長 市内誘致企業に市外の方々が従事、3次産業への依存度の高さ、事業承継されずに高齢化、半事業・半年金の多いことなど、要因は複数ある。対策の一つが、雇用の創出と事業者が利用しやすい更なる支援制度、体制の充実。商工団体、金融機関と連携したビジネスマッチングイベントの市内開催など、市内大手と地元中小企業との関係も強化したい。地場野菜を活用した商品開発など、野菜のブランド化による価値向上の農業振興。高齢化や後継者不足で事業承継が難しい中小企業には、商工団体と連携・サポートしていく。市外在住で市内企業従事者には、移住・定住につながる施策を推進するなど、きめ細かく対応していきたい。
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2021年伊勢崎市長インタビュー
【写真】新保健センターを建設する、大手町の福島病院跡地

「望ましい保健行政の在り方」に道筋
臂伊勢崎市長に聞く―2022【1】(2022年3月28日)

 就任2年目を迎えた臂泰雄伊勢崎市長。コロナ対策ではワクチン接種や経済支援対策に力を注ぐ一方、マニュフェスト実現や積年の諸課題に取り組んだ。就任早々、複数施設案だった新保健センター・子育て世代包括支援センター計画を、粘り腰で統合に巻き直した。市独自の保健所設置に向けても動き出し、今後の市保健行政の望ましい方向性を探っていく。組織改編も断行するなど、エンジン全開の1年を振り返り、2年目に向けての取り組みを聞いた。

 ― 市長就任から1年を経過しました。コロナ対策に多くの精力を割かざるを得なかった中で、市政運営を振り返っての感想を。

 臂市長 社会情勢の急激な変化、市民ニーズの多様化を肌で感じた1年だった。「建物が使えるから」と、当初は赤堀との2館体制だった新保健センター等計画は、県や国への申請手続き上、時間ギリギリだったが、統合でまとめることができた。職員の皆さんには大変な苦労を掛けたが、合併の理念、本来の望ましいあり方や組織へと舵を切ることができたと思う。その組織改編では農政部の独立、新年度に向けては副市長2人体制の他、細部にわたる組織改編を行った。一方、土地建物を民間に貸与し契約期間満了が迫っていた伊勢崎地方卸売市場は、あり方検討委員会の設置で方向性を導き出してもらう。中心街の活性化に向けて、駅に近い伊勢崎織物協同組合が所有する土地活用に関わる協定締結など、諸課題への道筋はつけることができた。

 ― 不本意だったことはありますか。

 臂市長 本来は市民一人ひとり、あるいは各種団体の皆さんの声をもっと聴き、意見交換ができる話し合いの機会を持ちたかった。残念だが、コロナ禍でことごとくダメになってしまった。今後は積極的に取り組める環境を整えたい。

 ― そのコロナ禍の現状と対策は。

 臂市長 市内では2月末までに7800人の陽性者を確認している。2回目を打ち終え6か月経過対象者のワクチン接種券は、4月中には全て届くよう手配している。言語が壁になり「どうしたらいいかわからない」という外国籍の皆さんには、キーパーソンの人に出演してもらい、多言語で解説した動画を昨年の4月から配信している。外国籍の人を雇用する経営者には、職場でワクチン接種を促してもらうよう理解を求めた。このため外国籍の市民の接種率は高い。例えば3月23日時点の3回目は、全市民14・1パーセントに対して、18歳以上で17パーセントと、3ポイント近く上回っている。

 ― コロナで疲弊した地域経済回復に向けて、市民生活や企業経営支援策は。

 臂市長 プレミアム率30パーセント上乗せコロナ対策認定店支援チケット発行、所得制限で国の子育て世帯給付事業対象外世帯への臨時特別給付、国や県の事業継続支援金受給事業者に上乗せ助成する、事業者支援給付金事業などを行った。基本的には国の対策に準じて実施してきた。
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2021年伊勢崎市長インタビュー
【国政は立憲民主党が惨敗した衆院選総選挙が終わり、来夏には参院通常選挙が行われる。この間、伊勢崎市議選(4月24日投開票)を控えている。そこで市政の現状について伊勢崎市議会の正副議長に、それぞれの目を通した考え方、取り組みを聞いた。2回目は吉山勇議長】

 「工業団地造成に民活、保育/介護/看護の人材確保に投資」

 議長として心がけているのは「長年にわたって積み上げられた先例を踏まえた議会運営」。時には疑問に思う前例のない事態に、その経緯を調べて改善するなど柔軟に対応してきた。出産を控える議員の出産前後の休業規定はそのひとつ。昨年策定した新型コロナウィルス感染症に対する市議会対応マニュアル。「現実に発生して分かることもある」として議員の感染報告を受けて改定も行った。

 「伊勢崎市議会に限らずほぼ全ての地方自治体において、その機能は不十分」と、二元代表制の現状を語る。市政運営の細かなルールは執行で作成し、各事業案件の是非は執行が提供する情報に基づいてチェックする仕組み。「議会が決めた市政運営のルールに則り、執行状況をチェックできる状態まで進化させたい」の理想は、限りなく高い壁に阻まれている。それでも「少なくとも議会にはその責任がある」と、言葉に自覚と自戒を込める。

 経営者らしい発想で期待を寄せるのは、民間企業の資金力と事業運営能力を活用する「民活」だ。税収増に向けた投資として、民間の工業団地造成や企業誘致、市民プール再建などに、その活用を提案する。人的投資として挙げたのは保育・介護・看護などの学生への市独自の奨学金制度の充実。「こうした人材の確保が困難を極め、早急な対応が必要」と訴える。

 高校卒業後に携わった家業の飲食店経営で、社会人としての経験不足を感じた19歳の時。バスを乗り継ぎ米国を一周する旅に出た。ロスを起点にメキシコ・アカプルコに抜ける45日間の旅の途中、ニューヨークに立ち寄った。摩天楼のビル群に立った時、1年後にはこの地で生活してみようと決めた。米国で語学学校にも通い、飲食店の出前注文の電話を受けながら英語を覚えた。3年と決めていた滞在は6年に及んだ。

 ニューヨークで刺激を受けたラテンジャズやサルサなどの新しい音楽文化。帰国後に地元の人に楽しんでもらおうと、自身経営のお店に毎月、東京から演奏家を呼でみたが、商売としては続かない。市議立候補の動機のひとつは「こうした音楽の楽しさを行政にも手伝ってもらい広めることができたら」。もっともいざその立場になると「他に対応すべきことが山ほどあり」、手つかず状態が今も続いている。(2021年11月28日)

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 【国政は立憲民主党が惨敗した衆院選総選挙が終わり、来夏には参院通常選挙が行われる。この間、伊勢崎市議選(4月24日投開票)を控えている。そこで市政の現状について伊勢崎市議会の正副議長に、それぞれの目を通した考え方、取り組みを聞いた。1回目は須永聡副議長】

「より開かれた議会改革に期待」市議会基本条例制定 

 議会運営の原則・責務や機能強化、災害時対応などを定めた市議会基本条例案が意見公募を経て、来年3月定例会に議員提出議案として上程される見通し。制定過程の意義と明文化による「より開かれた議会改革などへの取り組みの加速」に期待を寄せる。県内では既に制定自治体もあるが、市条例案は制定で終わらせず、選挙ごとの任期開始後に検証、見直し、市民への公表、改正と踏み込んでいる。

 使い道や透明性が求められる地方議会の政務活動費。領収書、視察等報告書、会計帳簿を会派ごとにホームページで公開し「交通費以外は1円まで領収書を添えて報告している」とその透明性を誇らしげに語る。一議員の上限額は月額3万5千円で、会派所属議員数に応じ、原則4半期ごとに交付される。旅費算定を定額から実費支給、前払いから後払いに変えたのは2017年度から。「年度当初は持ち出しが多くて」と、それなりの窮状に頭をかく。

 とはいえ市議会が他自治体先進地に後れをとっている部分も少なくない。また多くの地方議会に共通する、「執行が決めたことを承認しているだけの追認機関」的な市民の受け止め方を否定しない。議会開会や運営の自由度/一問一答による深い議論/政策立案/行政チェックなど、「行政と『真剣勝負』の関係をつくりたい」と意気込みを語る。加えて「議会は制度を変えられる」という「議会の存在意義」を市民に実感してもらう重要性も強調する。

「秘書時代に怒られたことは一度もない」と、14年間仕えた笹川堯元代議士の意外な一面を明かす。笹川氏を政治の師と仰ぎ、その信条「政治とは弱者のためにある」を自らにも課し、政務にあたっている。最初から政治家を志したわけではなかったが、薫陶を受けていつしか「地域の小さな声を拾う」という気持ちが芽生えていった。最後まで迷った就農への憧れは、立候補時に封印している。

 バックパッカーの間ではバイブル的存在の「深夜特急」(沢木耕太郎著)を、学生時代から愛読していた。ワーキング・ホリデーで人気のあるオーストラリアのケアンズ。大学卒業後の半年間は、大自然の中でキャンピングツアー助手や砂金堀を経験するなど青春を謳歌した。現在はコロナ禍もあり、旅に出られないストレスをメダカで癒している。10鉢の水槽の餌代はわずかで「あとは、ほとんどほったらかし状態」の手軽さも楽しんでいる。
(2021年11月17日)

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 次期衆院選(10月19日公示、31日投開票)で群馬2区から出馬する、堀越啓仁前衆院議員(立憲民主党)と元衆院議員の石関貴史氏(無所属)に、政策を中心に考え方を聞いた。井野俊郎前衆院議員(自民党)は「多忙の折」として取材ができなかった。2回目は前回の落選から立て直しを図り、固い政治信念のもとに無所属で挑む石関氏。

 「大都市・金持ち優先から地方重視・庶民優先」へ

― 政党からの出馬も検討していたと思いますが、今回の無所属出馬については。

石関 約4年間、複数の政党、政治勢力の方々から声をかけていただいた。落選からしばらくして「もったいない」から、と他選挙区での可能性を問われたこともあったが、生まれ育ったこの場所から出馬し続ける、の思いは今後も変わらない。様々なお話を検討してきたが、現時点では自らの政治信条と折り合いがつかず、不利は承知で無所属出馬に至った。

― 掲げている「保守政治の刷新」による政治改革について。

石関 自民・公明党政権に代わる責任政党を構築し、抜本的な行政改革・統治構造改革を推進する。大胆な地方分権移譲改革では、国の権限、財源、一部課税権、生活に関わる一部の法律制定権などの分権移譲を実現する。日本の歴史や伝統の尊重、格差是正など、公正な社会の実現だ。言い換えれば、大都市・金持ち優先から地方重視・庶民優先の政治の実現を目指したい。

 「20万円給付金 コロナ対策繰越30兆円などから」


― コロナ禍で困窮する国民一人ひとりに一律20万円の給付金を提言していますが、バラマキとの批判もあります。

石関 減税も否定はしないが、所得制限のない給付金が手続き上で即効性に勝る。財源はコロナ対策で組んだ30兆円の繰越予算を充てるなど、やる気さえあれば出来る事。お金と時間的に余裕のある一部利用者しか恩恵を受けないGO TO事業よりも、コロナ禍で生活に困窮している国民の支援を優先したい。富裕層はそれなりの税を負担しており、公平性は保たれている。

― コロナ禍で一度崩壊した医療体制の立て直しは。

石関 不足していると言われた医師や看護婦が、東京五輪では必要な人材を確保している。人的資源が足りている中で対応できないのは、医師会などの組織に問題があり、ここに手を付けて必要なら法改正も行うべきだ。まずは第6波に備えた病床の確保。それでも不足するなら野戦病院的な施設の整備も必要だ。

 「検証なき 財政破綻無しとするMMT理論は無責任」


― 1000兆円を越す借金国家でも自国通貨を自由に発行できる国は、財政破綻しないとする「MMT」理論。井野・堀越両候補は、肯定的に受け止めていますが。

石関 これは今のところ理論上の考え方に過ぎず、検証されているわけではない。必要なら政府のお金だからどんどん出せばいいとか、国民全体の資産がこれだけあるのだから国債発行はまだ大丈夫とする声も聞くが、国家や個人の生活を直撃する経済を語るうえで、政治家としては極めて無責任だと言わざるを得ない。

― 若者の政治への無関心をどのように受け止めていますか。

石関 日本では政治の仕組みや役割を教える機会がほとんどないことが起因していると思う。こうした学びの場を増やしていきたい。とはいえ、堅い話だけでは政治から離れてしまう。個人的には最近、若い人に政治への興味を持ってもらうように、動画投稿サイトのYoutubeに1分程度の政治の身近な話題の動画を順次配信している。ぜひ観て欲しい。

座談会
【写真】石関候補の立ち合い演説会で応援する鳩山由紀夫元総理(伊勢崎市内の選挙事務所前で10月23日撮影)

 信念と覚悟を持った政治人生

【横顔・取材メモ】「引かない 曲げない 諦めない」を政治信条とする、強気一辺倒だったかつての議員時代。初めての落選を経て「多少引くことは覚えた」と、少し角を丸くした。複数の企業顧問、コンサルタント業の傍ら、「次も必ず出ます」と伊勢崎駅南口には引き続き事務所を置き、年2回の後援会報発行、時に招かれての集会と日々の政治活動は続けていた。

 「バッジが無くなり離れていく人、変わらず応援してくれる人、折にふれて気に掛けてくれる人」。落選した政治家が味わう、悲喜こもごもの日々。今までは秘書任せで初めて知った、というパスモやスイカの使い方。ごく普通の金銭感覚を取り戻す日常生活の中で、自身を見つめ直し、学ぶことが出来た「充実の4年間」とも振り返った。

 ケネディ大統領がピューリツアー賞を受賞したベストセラー「プロファイル イン カレッジ」(邦題:勇気ある人々)。成功だけとは言い切れない信念を持って政治生活を送った人々に、自身の政治家人生を重ねる。保守刷新の理想を掲げての無所属出馬や「選挙は今回で終わるわけではない」の言葉に、政治家としての覚悟をのぞかせた。 

 学生時代の友人と年に1度の渓流釣りは、多忙な議員時代も時間をやりくりして出かけた。空いている時間は読書や映画鑑賞に充てる。心酔している小津安二郎監督作品では、代表作の「東京物語」(1953年公開)をベストに挙げる。大人向けアニメだが、子供たちと一緒に観ている明治末期の北海道・樺太を舞台にした金塊をめぐるサバイバルバトル漫画「ゴールデンカムイ」。「『鬼滅の刃』より食いつきがいい」と子供たちの反応に驚いている。(2021年10月17日)。

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